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【著作権】EU AI規則(AI Act)が日本企業に与える影響と実務対応の要点


2024年5月、欧州理事会により採択・成立した「EU AI規則(AI法/AI Act)」は、AIを巡る初の包括的な法体系として国際的に注目されています。この規則は、AIシステムの開発から流通、使用に至るまでの全過程において、基本的人権の保護、イノベーションの促進、信頼性の確保を目的とする行政法規であり、EU加盟国だけでなく、日本を含む第三国の企業にも多大な影響を与える可能性があります。


2025年3月、公益社団法人著作権情報センターがこの「EU AI規則」について全文翻訳を、井奈波朋子弁護士の翻訳で、同法人のホームページに掲載しました。


その翻訳文等を参考にして、「EU AI規則」について、日本の企業経営者やクリエイター等が気をつけるべき点について、まとめてみたいと思います。



1. EU AI規則の概要と適用範囲

(1)基本構造

EU AI規則は、以下の構成で構成されています:

  • 前文:180項目(法の目的、理念、基本的人権の位置づけ)

  • 条文:113条(13章構成)

  • 附属書:13件(技術文書、評価基準、リスク分類など)

規則は2024年8月1日に施行され、一部の規定は移行期間を経て2026年8月2日から全面適用されます。


(2)域外適用と対象事業者

本規則はEU加盟国に直接適用されますが、次のような域外企業も適用対象となります:

  • EU市場でAIシステムを販売・サービス提供する企業

  • EU居住者を対象とするAI製品や生成コンテンツを提供する事業者

つまり、日本企業であっても、EU域内でのビジネス展開がある場合や、EUの個人を対象にAIを提供している場合には、本規則の対象となります。


2. 実務上注目すべき条文と附属書

(1)第5条:禁止されるAIシステム

この条文は、倫理的・人権侵害のリスクが極めて高いAIの使用を明示的に禁止しています。

禁止例

  • 遠隔生体認証(リアルタイムの顔認識等)の広範な使用(特に公共空間)

  • サブリミナル技術による行動操作(例:人が気付かない形で感情や意思決定に影響を与えるAI)

  • 社会的スコアリング(国家や企業が人をランク付けするシステム)

これらに該当する技術を組み込んだ製品・サービスは、EU域内での利用が原則禁止され、違反には厳しい制裁(罰金上限は最大で全世界売上高の7%)が科される可能性があります。


(2)第6条・附属書III:ハイリスクAIの分類

AIシステムの利用分野ごとに、「ハイリスク」とされるAIシステムが列挙されており、次のようなケースが該当します:

  • 教育・試験支援AI(入試判断、不正検知など)

  • 採用・評価AI(人材選考、労務管理における自動化)

  • 社会保障・医療サービスAI(適格性判断、保険リスク評価)

  • 司法支援AI(証拠評価、リスク予測、判例分析)

これらは厳格な事前審査や技術文書の作成・保存(第11条)適合評価(第43条以降)、市販後モニタリング(第72条)が義務付けられます。


(3)第53条・附属書XI〜XIII:汎用AIモデル(GPAI)への新規制

GPT系、画像生成AIなどの汎用AIモデルに対し、開発者・提供者の説明責任を強化する条文です。

要点

  • モデルの構造、学習データ、訓練手法の説明

  • リスク評価と透明性文書の整備

  • システミック・リスクモデルのEU登録義務

これは、AIモデルを商用化するIT企業だけでなく、自社で微調整したAIを業務に活用する事業者も影響を受けます。


3. 日本企業・クリエイター等がとるべき対応指針

―自社のAI利用状況の棚卸

  • 自社が提供または利用するAIシステムが禁止/ハイリスク/GPAIのいずれに該当するかを確認します。

  • ユースケースごとのリスク分類が求められるため、部門ごとに利用目的と技術構造を可視化することが重要です。

―契約・ガバナンスの整備

  • 外部提供者(AIベンダー)との契約に、EU AI規則への適合を求める条項を明記(準拠法・責任分担・データ出所等)

  • 社内規定(倫理ガイドライン、ITポリシー)の見直しと整備

―技術文書・リスク評価の準備

  • 第11条に基づき、AIシステムの技術的説明、訓練・評価データ、リスク評価、ユーザーガイド等を文書化

  • 著作権上のリスク(第三者著作物の利用)にも留意し、データ取得経路の合法性確認が必要です

―人材育成とAIリテラシー対応

  • 第4条が企業にAIリテラシーの確保義務を課している点に留意

  • 経営層、開発者、営業・法務部門を対象に、AIリスク・倫理・著作権教育を内製または外部支援で実施


4. 日本法との比較

(1)国内法における不整合と課題

  • 日本ではAIに関する包括的な法律は未整備であり、個別法・ガイドラインにとどまる

  • 生成AIと著作権の関係も未解決領域が多く、文化庁の見解も曖昧な部分がある


(2)EU AI規則との構造的な違い

  • EUは、原則ベース+リスク分類+技術的要件明文化し、CEマーキングと一体化した制度運用を志向

  • 日本では、「自己チェックによる信頼性確保」にとどまっているため、国際競争力の観点でも今後の法整備が急務


(3)著作権との関係性と国際整合性

  • 訓練データの著作権処理に関して、EUではGDPRとAI規則の両立が求められており、トレーサビリティの確保と透明性文書の作成が推奨されている

  • 日本でも、AI開発者に対して出所開示義務や利用範囲の限定(著作権者の意向に配慮)を制度的に明記することが必要


5. クリエイター等が特に注意すべき点

(1) 汎用AIモデル(GPAI)と著作権に関するリスク

EU AI規則では、第53条および附属書XI〜XIIIにおいて、汎用AIモデルの提供者に対し「訓練データの説明責任」「透明性」「トレーサビリティ(出所追跡)」を求めています。

つまり、クリエイターの著作物(例:画像、音楽、文章など)が無断でAIの学習に使用された場合でも、EU域内では「出所を明らかにせずに使用するAIモデル」は適法とは評価されにくい可能性があり、クリエイターによる異議申し立てや利用停止要求が現実的になります。

―日本の現状との違い

日本では、著作物をAIが学習に使用することについては、「非享受目的であれば著作権侵害に当たらない」との文化庁の見解(著作権法第30条の4)がありますが、EUは著作権保護とAI訓練の両立を明確に義務化しようとしています。


(2) クリエイター自身がAIを使う場合の責任

たとえば、イラストレーターや小説家が、ChatGPTや画像生成AIを活用して作品を制作し、商用利用する場合、そのAIがEUにおける規制対象であるならば:

  • 生成物の出所開示義務

  • AIの出力と人間の創作の区別

  • AIモデルの適法性の確認義務

が、クリエイターにも及ぶことがあります。

たとえば、EU居住者向けにコンテンツを販売する同人クリエイターが、AIを使って生成したイラストを商用利用した場合、「使ったAIモデルがEU法上の透明性義務を果たしていない」ことにより、EU域内での提供が違法とされるリスクが理論上生じます。


(3) 著作権侵害の防止措置としての活用

一方で、EU AI規則はクリエイターにとって権利を守る武器にもなり得ます。

たとえば:

  • 自身の作品が無断でAIに学習されていないかの確認

  • 不当なコンテンツ利用に対して、EU域内での是正要求(AI提供者に対する苦情や異議申立)

  • EU市場での権利行使・契約交渉時の交渉材料

として、AI規則に基づく権利保護を活用できる可能性があります。



6.最後に

EU AI規則は、単に「規制する」ものではなく、責任あるAI利用によって国際的な信頼を確保するためのルールです。日本の企業やクリエイターにとっても、これに対応することは、コンプライアンスだけでなく、顧客・社会・投資家からの信頼の獲得につながります。

特に、AIと著作権の関係については、「フェアユース」的発想が通用しないEU市場においては、出所の明確化と権利処理の徹底が不可欠です。

AIへの対策として法務・開発・経営が一体となった戦略的対応が求められます。


【参考】


 

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