2024年11月19日、「法制審議会民法(遺言関係)部会」の第7回部会が開催されました。ここでは、これまでの議論を踏まえ「中間試案のとりまとめに向けた議論のたたき台」が提示され、方向性の検討が行われました。「たたき台」では、デジタル技術を活用した新たな遺言方式や保管制度のあり方、さらには遺言事項の明確性について具体的試案が示され、また成年被後見人の遺言についても言及されています。
この記事では、第7回部会での議論の要点や「中間試案」の方向性について分析したいと思います。特に注目されるのは、「デジタル技術を活用した新たな遺言方式」の提案です。この新方式は、現行制度の課題を解決しつつ、より便利で安全な遺言書作成を実現するためのものです。
第1回~第6回までの議論のまとめは こちら の記事をごらんください。
デジタル技術を活用した新たな遺言方式
「たたき台」では、以下の3つの方式が検討されています。それぞれの方式は、遺言者の利便性と安全性を両立させるために異なる特徴を持っています。(それぞれの案の名称は、記事をわかりやすくするために、付したもので、いずれも公式に用いられている用語ではありません。また、いずれも検討中の内容であり、導入が正式に決定したものでもありません。)
【甲案】証人立会い型デジタル遺言方式 この方式では、遺言者が電磁的記録(電子文書)に遺言内容を記録し、その過程で証人2人以上が立ち会い、録音・録画を行うことが要件となります。
主な要件:
遺言の全文や氏名を記録した電子文書を作成。
証人が立ち会い、内容を確認した後に承認。
遺言者と証人のやり取りを録音・録画。
録音・録画データと遺言文書を結合して保管。
特徴:
証人の立会いがあるため、遺言の真正性が高く保たれる。
自宅で作成可能だが、家庭裁判所での検認手続きが必要。
課題:
証人の負担が大きい。
録音・録画データの管理コストが高い。
【乙案】公的機関保管型デジタル遺言方式
この方式では、遺言者が作成した電磁的記録を公的機関(例:法務局)が保管します。保管時に遺言者本人の確認を行うことが要件です。
主な要件:
電磁的記録を作成し、公的機関に提出。
マイナンバーカードなどで本人確認を実施。
公的機関がデータを安全に保管。
特徴:
遺言書が改ざんされるリスクが低い。
公的機関による保管で発見しやすい。
検認手続きが不要。
課題:
保管手数料や本人確認の負担。
デジタル技術に不慣れな高齢者への対応
【丙案】プリントアウト型デジタル遺言方式
この方式では、遺言者が作成した電子文書をプリントアウトし、手書きで署名したものを公的機関が保管します。
主な要件:
作成した電子文書をプリントアウト。
手書きで署名。
公的機関に提出し、本人確認を実施。
特徴:
従来の紙ベースの遺言書に近く、デジタル化への抵抗感が少ない。
保管時の安全性が高い。
課題:
プリントアウトと署名の手間。
遺言内容の追記や変更時に追加手続きが必要。
新方式の課題と解決策
これらの新方式には、それぞれ課題が指摘されていますが、第7回部会では次のような解決策も検討されています。
デジタル技術の利便性と負担のバランス マイナンバーカードや生体認証を活用し、本人確認をオンラインで行う方法が議論されています。一方で、技術的な負担が遺言者に過度にかからないよう、対面手続きの選択肢も残すべきとの意見が出されています。
証人の役割の簡素化 証人が立ち会う場面を最小限にしつつ、遺言の真正性を担保するために録音・録画データを活用する案が検討されています。
高齢者への配慮 デジタル技術に不慣れな高齢者でも利用しやすい制度設計が必要です。例えば、法務局での窓口対応を充実させたり、家族や専門家が手続きをサポートできる仕組みを導入することが提案されています。
その他の検討事項
第7回部会では、新たな方式の議論以外にも、以下の点が取り上げられました。
遺言能力の基準 成年被後見人の遺言能力について、現在のルールを見直し、柔軟に対応できる制度が議論されています。
遺言事項の明確性 遺言内容が不明瞭な場合、相続人間で争いが生じることを防ぐため、明確性を確保するための新たな規定が検討されています。
中間試案が目指す未来
今回の「たたき台」は、現行の遺言制度が抱える課題を解決し、デジタル時代にふさわしい新たな制度を提案するものす。「中間試案」が取りまとめられるまでに、より具体的な案が検討されることと思います。これにより、いずれにしても「中間試案」は次のような施策の方向性を打ち出すことが期待されます。
相続トラブルの減少:安全で明確な遺言方式が普及することで、相続人間の争いを防止。
利便性の向上:デジタル技術を活用することで、遺言書の作成や保管がより簡単に。
法的安定性の強化:新方式が法的に整備されることで、遺言の有効性を巡る争いを防ぐ。
まとめ
「法制審議会民法(遺言関係)部会」の第7回部会では、中間試案のたたき台が提示され、デジタル時代に対応した遺言制度の詳細が議論されました。特に、デジタル技術を活用した新たな遺言方式は、現行制度の課題を解決し、多様なニーズに応えるものとして期待されています。
今後も法改正の動向に注目し、自分や家族に適した遺言方式を検討していくことが大切です。本ブログでは今後も引き続き、改正情報をおいかけていきたいと思います。
また、自分や家族の未来を見据え、遺言書作成について検討される方は、ぜひ行政書士等の専門家にご相談ください。
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