2024年10月、欧州連合(EU)は、製造物責任規則を現代の技術進化や循環型経済のニーズに適応させるための大幅な改正を発表しました。この改正は、日本企業にとっても非常に重要です。なぜなら、EU市場への製品供給に影響を与え、技術や製造プロセスが進化する中で、製造業やテクノロジー企業にとって新たな課題をもたらすからです。
本記事では、日本企業がこの改正に対して注意し、対応するために重要なポイントをまとめました。
1. 改正の背景と目的
EUの製造物責任指令(Product Liability Directive)は、1985年に初めて施行されて以来、消費者保護のために重要な役割を果たしてきました。しかし、40年近くが経過し、その間にデジタル技術やサプライチェーンの複雑化、環境問題が大きく進展しました。これにより、従来の規制では現代の消費者のニーズや新たなリスクに対応しきれなくなっていました。
新しい改正の目的は、AIやIoTなどのデジタル製品や、再製造・リサイクルが進む循環型経済に対応する製品に対しても、適切な責任を追及できるようにすることです。これは、日本の製造業やテクノロジー企業がEU市場に製品を供給する際に、これまで以上に厳格な製造物責任を問われる可能性があることを意味します。
2. デジタル製品に対する責任強化
AIやソフトウェアを搭載した製品は、従来の物理的な製品に比べ、特定のリスクを伴います。例えば、AIが搭載された機器が誤作動を起こした場合、その被害が大きくなる可能性があります。この点を踏まえ、今回の改正では、製造者がAIやソフトウェアに関連する不具合に対しても責任を負うことが明確化されました。
特に日本のテクノロジー企業にとって重要なのは、ソフトウェアのアップデートやAIの学習アルゴリズムに関する義務が強化された点です。
製品が出荷された後でも、アップデートや改善が行われることが一般的なデジタル製品においては、製造者が製品のライフサイクル全体にわたって責任を負う可能性があるのです。このため、製品の開発からアフターケアまで、一貫したリスク管理が必要になります。
3. 循環型経済への対応
EUは、環境保護と資源の持続可能な利用を推進するため、循環型経済を重視しています。これにより、再製造品やリサイクル製品が市場に出回ることが増えていますが、従来の製造物責任規則ではこれらの製品に関する責任が明確でありませんでした。
今回の改正では、再製造品やリサイクル製品に対しても、製造者や修理業者が一定の責任を負うことが求められるようになります。日本の企業がEU市場に再製造品やリサイクル製品を輸出する場合、その品質や安全性に関する責任が明確化されるため、製造工程の管理や品質保証の強化が求められます。
さらに、製品が長期間使用されることを前提に、修理や保守のプロセスも重要視されています。これにより、製品の寿命を延ばし、環境負荷を軽減する取り組みが推奨されています。日本企業にとって、EU市場で競争力を保つためには、製品の耐久性や修理しやすさを高める設計が求められるでしょう。
4. 責任の範囲拡大
従来、製造者の責任は、製品の欠陥が原因で発生した損害に限定されていました。しかし、今回の改正では、その責任範囲が大幅に拡大されました。具体的には、製品の安全性に関わる情報が提供されなかった場合や、製造者がリスクを軽視していた場合でも、責任が問われることが明確化されています。
これにより、日本企業がEUで製品を販売する際には、製品の安全性に関する十分な情報提供やリスク管理が求められることになります。特に、デジタル製品や再製造品においては、消費者が適切に製品を使用できるよう、使用方法やリスクに関する情報を明確に提供することが重要です。
5. 日本企業への影響と対策
今回のEU製造物責任規則の改正は、日本企業にとって大きな影響を与える可能性があります。特に、デジタル製品や循環型経済に関連する製品を取り扱う企業は、より厳格な責任が課されるため、製品開発やサプライチェーンの見直しが求められるでしょう。
まず、日本企業は製品のデザイン段階から安全性や環境への配慮を強化する必要があります。さらに、製品のライフサイクル全体にわたるリスク管理や、消費者に対する情報提供の強化が不可欠です。AIやソフトウェアのアップデートに関しても、法的リスクを低減するために、適切な保守体制を整えることが求められます。
また、再製造品やリサイクル製品を取り扱う企業にとっては、製品の品質保証や安全性管理がこれまで以上に重要になります。EU市場で競争力を維持するためには、これらの要素をしっかりと見直し、適切な対応策を講じることが必要です。
EUの製造物責任規則の改正は、デジタル時代や循環型経済に対応するために大きな転換点を迎えました。日本企業がこの変化に適応し、EU市場で成功を収めるためには、製品の安全性や環境配慮、デジタル技術の適切な管理が求められます。
規制改正に伴い、技術革新や環境対応における新たな機会とリスクをしっかりと捉え、準備を進めることが重要です。
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